奄美の梅雨の時期の代表的花といえば、イジュ(2008年6月号参照)、ゲットウ、コンロンカと並んでノボタンが挙げられるのではないだろうか。5月中旬から7月中旬頃まで山野でごく普通に見られる花である。木の高さは1〜2mで、淡い赤紫色の美しい5弁花を咲かせる。奄美以南から東南アジアにかけて分布する。
画家田中一村も身辺で、とくに通い慣れた朝の散歩道本茶峠でこの花を目にしていたはずで、ノボタンをメインに草花と蝶をあしらった一幅の傑作を残している。
ちょっと私的なことになるが、私は、晩年の一村と交流のあった陶芸工房経営の故宮崎鐵太郎さんを通じて、そしてまた一村の作品を通して、奄美の自然に目を開かれた思いがしている。宮崎さんに本茶峠でノボタンの群生地を教えてもらったとき、この花は少年の頃名前も知らずによく見ていたもののその後ずっと忘れていたことに気が付いた。また、宇検村の山中に初めてアマミセイシカ(2007年4月号参照)を見に案内して頂いたことは、いまではかけがえのない想い出となっている。