筆者:別府厚生
  1938年東京生まれ。少年時代と1974年以降、奄美大島在住。
  趣味は写真撮影、ヴィデオ撮影、釣り、囲碁等。












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【浜降(お)れ】

旧暦の3月3日は1年で最も潮の引く日だといわれる。この日、奄美では方言で「ふつむち」と呼ばれるよもぎ餅(蓬の若葉、糯米、黒糖またはザラメ糖が原材料)や重箱入りのご馳走をこしらえ、浜辺に降りて家族や親しい者どうしで小宴を催す風習があった。その前に、潮の引いた珊瑚礁に降りたって、貝拾いや蛸取りに興じるのである。おそらく、日頃の労働からの休息と、潮風に当たることで健康を願い、英気を養うという意味合いもあったのであろう。
 
 今日では浜辺でご馳走を広げる風景はなかなか見られなくなったが、それでも多く人たちが潮干狩りを楽しんでいる。去る4月19日は旧暦の3月3日に当たり、この日は快晴で、大勢の人々が各地の海辺を訪れた。私は昔よく釣りをした笠利町の土浜を訪れた。貝を探す人、蛸取りを試みる人、釣りをする人など普段の10倍くらいの人出であった。
 
 島で「カタンニャ」と呼ばれる突起のないマルサザエやチョウセンサザエは最も人気のある貝であるが、見つけるのは容易ではない。リーフの入りくんだ小穴の壁や天井に張り付いていることが多いからである。それを10個から20個も見つける人がいるので感心してしまう。この貝は「拾う」ことはできない。穴の壁や天井から剥がすには特別な金具が必要である。